調教 スカイメモNS

しばらく使っていなかったケンコースカイメモNSですが昨年測定したピリオディックモーションが予想外に大きかったので調べてみることにしました。

予想外の理由は以下のとおりです。
スカイメモNSのピリオディックモーションは明確に公表されていませんがカタログによるとウオームネジは焼き入れ研磨後にラッピング云々と謳っているし、撮影の目安は200mm望遠レンズで30分迄と記載されています。当然設置精度や架台の安定度、対象の方向など最高の条件での話しだと思いますが辛く見積もっても半分の15分はノータッチでいけるだろうと期待してしまいます。逆にいうとスカイメモNSのウオームギヤーは144歯なので約10分周期のピリオディックモーションは条件の厳しい赤道付近でも200mm望遠レンズを追尾する十分な精度があると考えられます。これは昔のフィルム時代の話ですが約20”のガイド精度に相当し、ピリオディックモーション±10"〜ということになるのですが実測では55"=±27.5"でとても200mm望遠レンズを追尾する精度がありません。

カバーを開けると頑丈そうなスチールの極軸と銅色した砲金?(カタログには明記されていない)と思われる筒状のウオームホイル(一般赤道儀の流用?)と細めのウオームネジ、真鍮と思われる軸受け及びモーター、平ギヤーなどが目に付くが単純な構造だ。通常安価な赤道儀でもウオームホイルとウオームネジの当たりを調整する機構があるのだがこのスカイメモにはどこにも無い。更にウオームネジの軸受けも通常は一体構造で軸方向のガタを調整できるようになっているものだがこれも単なる真鍮のブロックとなっている。

うーん調整できそうな所がないなと眺めているとウオームネジがホイルネジの切削中央にないことに気がついた。ウオームの当たり調整する機構がないのでここをずらして調整するのかと対応を考えていた時、コトっと音がしてウオームホイルが動いた。なんとウオームホイルを極軸に固定しているネジが緩んでいて少しだが極軸方向に動くのだ。
これでは精密な追尾など望むべくもないが出荷時のウオームホイル固定位置はどこだったのか今となっては判明しない。

基本的にはウオームネジはホイルネジの切削中央に位置するべきだと考え目測で中央になるように固定した。極軸回転方向のバックラッシュは少し大きくなったようだが常に一定方向に回転する極軸なので大勢に影響ないだろうと考える。

夜を待ってピリオディックモーションを測定する。
自宅ベランダからは北極星が見えないので正確な極軸合わせができないが適当に設置して420mmガイド鏡とGAGP1で計測。

あらら、前より悪くなっている。 うむー どうしたものか?


やはりそう簡単には問屋が卸してくれないようだ。調整機構がほとんど見当たらない中で唯一ウオームホイルがスライドできるようになっている。徹底的にここで調整するしかない。

微妙な当たり調整するためのウオームネジを指で回したときの感触はVixen SPやGP赤道儀で経験している。ウオームホイルは全周で必ず当たりのきつくなる所とゆるくなる所がある。まずこの箇所を確認しようとウオームネジを回していると極端にきつい、というよりも回らなくなる所があるのだ。軸受けブロックを外しウオームネジを抜くと極軸はフリーに回るはずだがなんとゴリゴリと回らなくなる所がある。この感触は何かに引っかかっている感じだが引っかかるものは何もなく、傷ついたベアリングの感触に近い感覚だ。ベアリングの故障といういやな想いがよぎったがCRC556を注油したところフリーに回るようになった。ベアリング内のオイルかグリスが経年劣化で固化したようだ。

オーバーホールしかない!、と自分に言い聞かせる。
極軸体を外したいが極軸南端に2つ(ダブル)、北端に1つの特殊ナットで固定されている。このナットを外すためには専用ツールが必要だが北端側と南端側の大きさは異なる。

ナット一体型極軸北端

とりあえず北端側ナット回しツールを作る。
物干しハンガーの切れ端だが1箇所ヤスリで凹みをつくり6mmタップの四角い頭をナットとのキーピン代わりにする。
以前の工作端材を捨てないでいる性格がこういう時に役立つと自画自賛。

南端側のツールも作らねばと思っていたがウオームホイルを思いっきり押さえて回したらなんとか回せた。
このとき当然だがナット固定イモネジを緩めウオームネジは外しておく。
極軸北端のフィルターは極軸望遠鏡保護用。

各パーツを取り出してパーツクリーナーで洗浄したいが南端の固定ナットを外さないと極軸体は抜けないのでウオームホイルと南端側テーパーローラーベアリングは極軸体につけたまま洗浄した。この時極軸望遠鏡にパーツクリーナー液が入り込まないように養生しておく。


ウオームネジと軸受けブロック 北端側テーパーローラーベアリング 南端側テーパーローラーベアリング

テーパーローラーベアリングはやはり油脂が固化していた。昔はパーツクリーナーなど無くこういうメカ部品はよく灯油やガゾリンで洗っているのをバイク屋で見かけたものだ。それにしてもこのベアリングといいハウジングといいポータブル赤道儀というには余りある頑丈さと重量で、ウオーム系を除けば7、8Kg程度の搭載重量に耐えられそうだ。

各パーツを丁寧に洗浄したらグリスやオイルを注油する。ベアリングやウオーム系にはどんな油脂を施せば良いかメーカーのケンコーに問い合わせしたいが窓口がややこしそうなのでベアリングメーカーや先人のWEBページ情報で知識を習得。結果的にベアリングにはリチュームグリス(ちょう度2)を施した。ウオーム系には”AZホワイトグリス”というのを施したが元のグリスは劣化していたとはいえかなり粘度が高いのでもっと高粘度のグリスの方が良いと思うが市販品が見つからない。

元通りに組み上げたらいよいよウオームの当たり調整だがその前にウオームネジの軸受けブロックを固定しなければならない。とりあえず3本のウオームホイル固定ネジは緩めておきホイルのネジ切削中央にウオームネジが位置するように軸受けを固定するのだがウオームネジのスラスト方向のガタをとりながらきつ過ぎず、ゆる過ぎず固定するのが難しい。最後の増し締めで微妙な感触が変わってしまう。また2個のブロックは一見同じだが左右、表裏を変えるとウオームネジが全く回らなくなるほどバインドされてしまう。これはこの個体だけのことだろうか。

追尾精度に関してはウオーム系の精度のことはよく言われるがウオームネジ軸受けも同様に精度と強度が求められるはずだ。回転モーメントの応力はひとえに軸受けにかかっている、特にスカイメモNSを北半球で使う場合には駆動側(平ギヤー側)の軸受けに応力がかかる。これらのことを念頭におき、ウオームネジを指で回し、感触を確かめながらブロックを固定する。

次に当たり調整だがホイルのネジ切削中央にウオームネジが位置している時はウオームネジの回転感触は軽くバックラッシュも多い。もっとホイル側に密着させたいのだが前述の通り調整機構はない。あえてするなら軸受けベースのアルミブロックとダイキャスト筐体の間に薄いシムなど挿入する手もある。ウオームホイルを極軸方向にスライドできる(ホイル固定ムシネジの先端が極軸に設けられたV字の溝に沿って移動できる)構造になっていることからメーカーではウオームホイルを意図的にずらせて調整しているのではないかと勝手に想像し、ホイルを南側に(北側でも?)少しずらせバックラッシュの感触を確かめながらホイルを極軸に固定する。ホイル全週においてウオームネジの回転感触が一律となるようホイル固定ネジを締め付ける。3本の固定ネジは頭がマイナス(−)の3mmムシネジなので強く締めすぎると頭が破損しそうで不安が残る。ネジ穴の中で破損したら再起不能だ。6角レンチのイモネジに交換しようか・・・

結果の最終確認は写真撮影を待たねばならないがまずはピリオディックモーションを確かめたい。この調整で良いのか悪いのか、ダメならどう調整すれば良いのか思考錯誤が必要だ。
その都度恒星を使ってピリオディックモーションを確かめるのでは埒があかない。
室内で確認する何か良い方法はないか。メーカーではどうしているのだろう?


寝床に入って考えていると老朽化した脳でも時々妙案を思いつく。目をつぶっていると雑念が入らないし脳ミソを横にしているといつもと違った思考回路が働くのかも知れない。

調整のためには正確なピリオディックモーションを測定する必要はなくピリオディックモーションが大きいか小さいか傾向がつかめれば良い。→恒星の変わりに何か一定速度で動くものはないか。→プラネタリウム?→ステラナビゲータ、ステラシアター?→恒星の動く方向、速度を自由に調整できるか?→No?→プログラム自作?→パソコン画面の1ドットを恒星に見立ててこれをプログラムで動かせばGAGP1で測定できるのではないか。メカ的でなく電気的に動くものなら比較的精度も保たれる。
・・・などと思考をたどって夢の中・・・Zzzz

早速簡単なプログラムを作ってみた。
これは赤経方向を調整する初期画面だが立ち上がり角度、恒星の移動速度、東西方向などを設定できる様にしている。スタートすると赤経方向ラインが消えて擬似恒星のドットが左下から右上に向かって一定速度で移動する。これをGAGP1を使って恒星と同じように測定する。スカイメモは2倍速の増速ボタンが付いているのでドットの移動速度も2倍にすれば測定時間は半分約5分ですむ。

右→は室内で約2.3m先のPC画面のドットを200mm望遠とToUcamで追尾している様子。
極軸とPCの距離によってドットの移動速度あるいは時間当たりの移動距離が決まる。室内での近距離では本当は極軸を中心とする半径2.3mの円周上を擬似恒星は動かなければならないが10分(ウオームネジ2回転分/倍速)で移動量は約20CmなのでPCの平面画面でも代用できるだろう。望遠レンズに自作対象確認アダプターを介してToU Camを着けているのでバックフォーカスが長くマクロレンズのような効果が現れている。1台のPCでこのプログラムとGAGP1を操作しても良いが2台あれば別々の方がやり易い。

で、得られたグラフが↓これだ。

ウオームネジ1.5回転分のピリオディックモーションだが激しく波打っている。これではとても望遠レンズでの撮影はできそうもない。

その後軸受けブロックやウオームの当たり調整をして波の振幅が最小となるよう調整したが平ギヤーのメッシュ(噛み合い)位置を変えるとピリオディックモーションの大きさがかなり変わることが分かった。


平ギヤーの最良のメッシュ位置を探すためにギヤーにマーキングをし、振幅を90度ごとに測る。次にその中で一番最小の位置を中心に前後45度程度の範囲を調べるといった方法で最良位置を探す。

 結果、ほぼ2回転分(20分相当)でこうなった
我が家の軟弱な床では人が動くとグラフに影響が出るので測定中はじっとしていなければならない。

かなり改善されたがまだ不満が残る。計算上このグラフのピリオディックモーションは1Pixel=約5秒なので最大80秒程にも達する。ある程度の誤差はあると思うがこれではまだ本物の恒星でピリオディックモーション測定をする気にはならない。

これまで考えられる調整は色々とやってきたがどうもこの辺が限界のようだ。
PEC(Periodic error correctionが使えれば良いのだがノンインテリジェンスなハンドコントローラーでは不可能だ。かといってPC を持ち出そうとすれば簡便さが失われる。などと考えているとメカPEC(筆者造語)という語が脳裏をよぎった。即ち、ピリオディックモーションはウオームネジの偏心が主な原因といわれている。ならば伝達の平ギヤーを故意に偏心させてこれを打ち消すことはできないか?現にギヤーメッシュを変えるとピリオディックモーションの量が変化するということは平ギヤーが偏心しているのではないかということだ。

早速実験したいが失敗したとき元に戻せる保障がないからオリジナルのギヤーを偏心改造したくない。市販品で同じギヤーをWEBで探そうとするがどうもスカイメモ特注品のようで規格品の中には見つからなかった。幸いVixenの平ギヤーが手元にあったので歯数は違うが直径はほぼ同じなのでこれを使うことにした。伝達比1:1を守れば歯数が違っても問題ないだろう。

スカイメモはモーター軸が3mmなのに対してVixenギヤーは6mm穴なので別の3mm穴の小ギヤーで偏心調整部を作った。左写真では左側ネジをピボットにして中心を偏心できるようにしている。

右に偏心の度合いを示す。どのくらい偏心させれば良いかは思考錯誤が必要だ。

この状態で前述のように最良のメッシュポイントを探す。

ほぼウオームネジ2回転分20分相当のグラフだがだいぶ改善された。特に後半の10分相当では計算上だがピリオディックモーション20秒以内に収まっているので200mm10分のノータッチはできそうだ。後はウオームホイル全週にわたって4〜5ピクセル以内の振幅に収まるようにしたいがもう挫折しそうだ。

オートガイドをすればこんなピリオディックモーションなど気にしなくても良いのだが200mm程度の望遠レンズでガイド撮影などしたくない。ましてポータブル赤道儀なのだから簡便さを犠牲にしたくないのだが200mmレンズの撮影に必要な精度を得るのがこれほど大変なことだとは思ってもいなかった。


梅雨はしばらく明けないと思っていたらあっという間に明けて今度は連日の猛暑でやる気が失せてしまいます。
実写テストをするのに北極星を確認できる近くの農道まで移動しなければならないが必要な機材を運ぶのに近くといえども手持ちではまさに荷が重く車を使わざるをえないのだが日中の猛暑でどうしてもビールに手がでてしまう。ということでなかなか実際の星でのテストができなかったが先日やっと検証測定にこぎつけた。

まずはピリオディックモーションを測定する。例によって6Cm420mmガイド鏡でズレ1Pixelあたり2.75秒。


天の赤道に近い恒星(ラス・アルハゲ)約20分間のピリオディックモーションの様子です。緑のラインの幅が200mm望遠レンズに許されるとされるズレ20秒角です。
最初の10数分間はぎりぎり20秒以内に収まっていますがその後は40秒程度と増加しています。また波形の規則性も乱れています。
これはウオームホイールの場所によってバラつきがあると考えざるをえません。カタログにはラッピング処理という言葉がありますがこれは個体ごとに摺り合わせ処理しているということではないのかなどと考えてしまいます。
この状態は運が良ければ200mm10分の撮影が可能という状態です。安心して使えるのは100mm以下でしょうか?

ところで200mm望遠レンズの許容範囲20秒とはフィルム時代の話で現在のデジタルの場合でも同じなのかという疑問が湧いてくる。よくAPS Cサイズの撮像素子では焦点距離は1.6倍(EOS Kiss X3)といわれているのでデジタルでは125mm相当までだが、これは画角の問題であって同じ焦点距離のレンズならばフィルムだろうが固体素子だろうが焦点像の大きさは同じなので許容量はレンズと受光素子の解像度(分解能)に左右されると考える。

200mm望遠レンズで許されるズレは最近のデジタルでは実際どのくらいか調べてみました。(Canon EF200mm F2.8L, EOS Kiss X3)

画像は天の赤道付近のアルタイルを固定撮影したもので画像中心部を等倍で表示している。
左が露出1秒、右が2秒だが2秒露出ではもうズレが分かる。星は1秒間で15秒角動くので30秒角ずれるともうはっきりと分かることになる。
左の1秒(15秒角相当)でなんとか許される範囲と考えるが微光星ではもはや20秒角のズレは厳しいかもしれない。
こうなると我がスカイメモNSのピリオディックモーション目標を15秒角以内に改めたくなるがもはや20秒が限界の気がする。

とりあえず実写テストと思ったがなんだかんだしているうちに曇ってきてしまった。まあ、この状態では200mmの追尾は厳しいだろう。
その前にウオームホイール全周で安定したピリオディックモーションにしなければならない。どうしたものか?最後の手段・・?
でも、またギヤーのメッシュポイント探すなんて、もうやだー!     
ということで実写テストは涼しくなるまでしばらく延期となりました。

つづく?


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