自動導入(GOTO)システムの作成計画

現在見えている天体の位置が分かればその方向に望遠鏡を向けることはそれほど難しいことではありません。赤道儀の場合は天体の時角(赤経)と赤緯が分かれば良いし、経緯台の場合は方位角と高度が分かれば目盛り環を使って手動で導入することができます。この手動部分を電動にすれば自動導入ができるはずです。
現在では自動導入赤道儀や経緯台は出現当時に比べると驚くほど安価になってきていますのでいまさら自作しなくてもと思いますが、自作派としては面白くありません。自分で考え、自分で作ったものが自分の目論見通りに動作した時、何にも替えがたい喜びを味わえます。目的は自分で作れそうなものは自分で作ることなのです。


一応計画としての目標を明確にしておきます。

1.双眼鏡(Optic Hiker 25X100)での観望を想定しているので架台は経緯台とする。
2.従って25倍くらいの視野(2〜3度)に自動導入できること。
3.目的は天体の観望であり写真撮影のような精度は求めない。
4.自動導入した後はその天体を自動追尾する。

まあ目標はこんなところでしょうか、はたしてうまく行くでしょうか?

導入の考え方

まず、手動で導入する時のことを整理しておきます。

1.経緯台の水平出しをし、目盛り環のN(0度または180度)が正確に北(磁北ではない)を向くように設置する。
2.目標天体の現在の方位、高度をパソコンソフトで調べる。
3.経緯台の方位軸を回して目標天体の方位にあわせ、高度軸を回して高度をあわせる。

たったこれだけで目標天体を導入することが出来るはずなのですが、実際はうまくいかないことがあります。
原因は
1.の架台の設置精度が本当に正しいか。
使用する光学系の実視野に見合った架台の設置精度が必要ですが、実視野2度(約25倍)とすると確実に視野のどこかに導入するためには最低実視野の1/4すなわち0.5度程度の設置精度が必要です。この場合、設置基準の水平は水準器、方向は方位磁石などに頼る訳ですがこれで0.5度の精度を出すのははなはだ疑問です。

2.のパソコンソフトの示す方位、高度は実際の(自分の環境での)位置を示しているのか。
当然自分の場所、時間は正しく設定しているのですが、大げさに言うとソフトによってまちまちなのです。0.1度位の誤差があるときもあり、どのソフトが正解なのか疑問に思うことがあります。しかし誤解を招くといけないのでことわっておきますが、どのソフトも計算上は正確です。すなわち同じソフトが出した異なる天体の方位、高度は相対的には非常に正確です。現実の位置と異なるのは上記架台の設置が絶対位置を基準にしているからです。すなわちパソコンソフトを使用するのであれば架台の設置はパソコンソフトに合わせるべきなのです。

そこで導入方法を少し変えてみます。

1.経緯台の水平出しを出来るだけ正確にします。
2.高度のあまり高くない恒星を探しその恒星を望遠鏡(双眼鏡)の視野中央に手動で導入します。その星の方位をパソコンソフトで調べ、架台の方位目盛り環を回して合わせます。これで方位の基準がソフトと一致したことになります。方位目盛り環が独立して動かせないものは、目盛り環の指標を自分で明示すれば使えます。高度は架台の水平出しが正確で高度軸が正確に作られていれば必然的に一致するはずです。一致しないとしてもほんの少しのはずですので、これも指標を自分で明示すればOKです。
3.次の導入からは最初の方法と同じです。

この方法では実際の星の位置とパソコンソフトの言う位置との同期をとるということです。現実は実際の星空が正しいのですから・・・
過去にこの方法を使う小型双眼鏡の手動導入架台を製作し満足な結果を得ています。

さて、これを自動化しようと言うのが今回のねらいです。
ここでクリヤーしなければならない問題を想定しておきます。

1.経緯台の選択  
最終的には4.5KgのOptic Hiker 25X100を乗せたいのですが、とりあえず自動導入実験のためですから手持ちの古いVixen SP赤道儀を経緯台として使うことにしています。最近発売されたVIXEN ポルタ経緯台も良さそうです。(自動導入ですから目盛環は無くてもOKです)

2.ソフトウエアの問題
天体の方位、高度が表示できる市販のソフト或いはFREEのWEB上のソフトを使うのがもっとも手っ取り早いのですが、方位、高度のデーターをどうやってもらうのか。(まさか手入力したのでは自動導入と呼べなくなる) 結局これは自前で製作しました。後は方位、高度のデーターをモーターの回転数に変換し、それをどうコントロールするかということです。

3.モーターの選択とその駆動回路の製作。
モーターは回転角度の正確なステッピングモーターを使用したいと思いますが、回転速度とトルクのバランスが重要です。直接導入スピードに影響しますので高速回転ができるものを選びたいのですが・・・ 駆動回路はステッピングモーター駆動実験で行っていますのでこれを応用すれば良いと考えています。

4.モータ駆動ドライバーソフトの製作
これも3.と同様このソフトの応用でいけると思います。問題は2つのモーターを動かさなければならないのですが、今後の課題としておきます。

5.モーターの架台への取り付け。
これは実際にモーターを手にしてみないと分かりませんが、なんとかなるだろうと楽観しています。

6.操作上の問題
今のところはパソコンからコントロールする予定ですが、暗いところでのパソコン操作は辛いですから微調整などのためにキーボードに代わる何らかの入力装置が必要と考えます。

自動導入の手順

導入の仕方は手動で導入する手順をソフトに置き換えます。

1.現在望遠鏡が向いている位置(以下、方位、高度を意味する)を確定する。
2.導入する天体の現在の位置を計算する。
3.現在の位置と導入する天体の位置の差を求める。
4.位置の差が+の場合と−の場合があるのでそれぞれの方向に振り分ける。
5.位置の差をモーターの回転数に変換する。
6.計算された回転数分だけモーターを回す。
7.現在の位置を目標天体の位置に置き換える。(厳密にいうと1.で確定した位置にモーターが回転した分だけ加える又は減算する)
8.項番2.へ戻る。

と、まあこんな具合なのですが、一つ疑問が湧いてくると思います。
それは、モーターが目標天体まで回転している間に天体も移動しているということです。
従って上記6.の時点では目標天体からずれている可能性が高いです。そこで7.→2.と循環することによって再びずれ分が計算され、モーターが回転して目標天体の導入が完了します。
これは導入速度に非常に大きく影響されますが、パソコン上でのシュミレーションでは2回目の循環で完了します。それも2回目の移動量はほんの僅かな量なのでほぼ瞬時に完了します。
シュミレーション上のスピードはステッピングモーター駆動実験の結果から想定していますが、あまり遅いと2回循環では完了しないかも知れません。

導入完了後も時々刻々と天体の位置は変化しますが、常に天体の位置を計算していますので上記手順でそのまま追尾してくれるはずです。
(2006/05/20記)

モーターの選定

モーターの選定は非常に重要なことです。導入速度、追尾精度、架台への取り付け、ギヤ-比、トルク、電圧など色いろなことを勘案して選択しなければなりません。
これらのことを一つ一つ整理しておきます。

1.導入速度は速いにこしたことはない。モーターはステップ角の大きな方が高速に回るが分解能は荒くなる。駆動パルスを早くすれば良いが限界がある。(トルクが弱くなる、脱調する)
2.追尾精度を高くするにはステップ角の小さなモータを使うかギャ-などで減速して頻繁に回すと良いのだが、導入速度に大きく影響する。
3.架台への取り付けを考えるとあまり大きくないものが良い。かといってあまり小さなものではトルク不足が心配。
4.トルク不足を補うために減速機構を設ければよいが導入スピードは遅くなる。
5.野外で使うのでポータブル電源、または車のバッテリーの12Vで駆動できるものが良い。

以上のように相反するジレンマと戦いながら総合的バランスを以下ののように考えました。

導入速度はあまり遅いとイライラしますのでスカイセンサー2000の使用経験を踏まえて遅くても3分以内に導入完了したいと思います。ステッピングモーター駆動実験からUSB-IOの制約のためかUSB1.1ではモーターは75RPMが限界なので、そのためにはSP赤道儀のウォーム軸を直接まわす必要があります。トルクが心配ですが、望遠鏡を載せないでウォーム軸を指でまわすと何とか回るくらいの抵抗感なのでなんとか行けるだろうと思います。SP赤道儀のウォームは144歯なので最大360度回転するのに144/75=1.92 約2分で計算上750倍速ということになります。これなら十分要求を満たしています。本当は現在位置から近いほうへ180度回転すれば良いのですが、これをやるとモーターケーブルが巻きつくことになりかねないので今回は北の子午線を越えないようにしています。
結局モーターはオリエンタルモーターのPK244-02A(6V 0.8A 7.5Ω 1.8deg/step)を選択しましたが、今考えるとどっちつかずかもしれません。(定価@\4,900-X2)
最初は12V 0.3〜0.5Aくらいのものを選ぼうと思っていましたが適当なものが無く、単純に6V0.8A/Φなら2相励磁で9.6Wだからトルクもそこそこ得られるだろうと考えたわけです。しかし12Vバッテリーから6Vに落とさなければならなくなりました。
モーターは他にも日本サーボも良いかもしれません。どちらも1個から購入可能です。




モーター駆動回路
最近ではステッピングモーターは定電流駆動のチョッパー方式かマイクロステップ方式を使うことが多いようですが回路の簡単な(部品点数の少ない)定電圧方式を採用することにしました。
秋葉原の秋月電子通商でパワーMOSFETモジュールMP4401を2個買ってきました(@\200-)。 他に周辺のIC抵抗なども準備しました。(約\500-)
定電流駆動チョッパー方式のSLA7026M(@\500-)も安くて良いのですが駆動電圧は最低でも24V、モーター抵抗も5Ω以下でないと特性が生かされないのではないかと今回は見送りました。

ソフトウエア
上記手順をソフトに書き下したものですがこれは以外に簡単にできました。まだ荒削りで細部の詰めは行っていませんがシュミレーションでは一応自動導入できる予定です。
追尾精度というか追尾の方法について少しだけ記しておきます。モーターのステップ角は1.8度なのでモーターに1:1で接続されたウォームホイル(方位軸、高度軸)は1.8/144=0.0125度(45秒角)の精度(分解能)を持つことになりますが、ソフトで1ステップづつコントロールすることはできないことではないのですが煩雑になるので今回の実験では4スッテプ単位にコントロールしています。従って1.8X4=7.2度単位でモーターを駆動し方位、高度軸で7.2/144=0.05度(3分角)単位に追尾することになります。25倍程度の観望ならば十分実用になると思っています。(2006/06/10記)

いよいよ製作に入ります。その前に架台に付けてトルクが得られるか確認します。
 確認しました→こちらに追記(2006/06/24)

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