横浜市内の自宅で天体写真が撮れるのか、これまでの取り組みと経験から感じたことと考え方を書いています。従って一般的な撮影方法などは書いていません。

1998〜1999年、この時期はまだデジタルカメラの天文適正に疑問がもたれており一部の先達者がNECのピコナというデジカメを改造して惑星を撮影しているのみだった。しかしこのデジカメで撮った惑星はすばらしく銀塩写真が主流の時代にセンセーショナルを巻き起こした。(勿論冷却CCDはあったが私にとっては遠い世界の話・・・) 1999年秋CASIOがキャノンレンズ光学8倍ズームを搭載したデジカメQV-8000SXを発表すると、改造しなくても良く写るとWEB上で評判となっていた。2000年秋1年遅れで格安となった中古QV-8000Sxを手に入れ、テスト撮影のつもりで土星を撮ったらあっさりカッシーニの空隙が写ったのには驚いた。銀塩ではカッシーニをぐるっと一周写すことは至難の業だったからだ。そうこうしているうちにWEB上では先達者は赤外カットフィルターを外したQVでなんと星雲を写していてあのM42が銀塩にせまる写りであった。さっそく私も赤外カットフィルターを外しM42に挑戦すると横浜の光害の中でも何とか写すことができ、銀塩では不可能だった自宅での撮影にデジカメの可能性を再認識したしだいである。それ以来横浜市内の自宅でどこまで星雲を写せるか試行錯誤がつづいている

自宅では光害の影響で5分、10分という長時間露出ができない、すなわちバックの明るさで真っ白にとんでしまう。冷却CCDのようにビット深度が16ビットもあれば画像処理でなんとかなるだろうがデジカメの8ビットや12ビットではすぐに飽和してしまう。対策としては飽和しないように短時間露出した画像を多数枚加算コンポジットすることでソフト的にビット深度を上げることができると考えている(正確にはビット深度が上がるわけではないが0〜255階調のきめが細かくなり深度が深くなったと同等の効果がある)。相反則不軌(そうはんそくふき)が無いといわれているデジカメならば10分露出1枚の画像と1分露出10枚の加算コンポジット画像は基本的に同じであるはずである。違うことは光を連続的にCCDが蓄積するか断続的にCCDが蓄積したデーターをソフトで蓄積するかの違いだ(実際は少し違うようだが銀塩に比べれば格段の違いがある)。当然ステライメージのようなハイビットの演算ができるソフトが必要となる。

しかし問題となるのは果たして星雲などの淡い光が光害地でも地上まで届いているのだろうか?という疑問がおこる。余談になるが光害というのは空気中の塵や粒子、水蒸気などによって人工光が散乱、反射して発生する。従って人工光はもちろんだが大気を汚す原因(煤煙、排ガスなど)も取り除かないと光害対策が半減する。現に毎年正月のころは冬の気圧配置に加えて会社、工場の休業、更には帰省によって人口が減るためか首都圏でも結構暗い透明度の良い日にめぐり合える。

光は粒子だとすると光害の原因となる粒子に当たらないでザルの目をすり抜けるように運よく地上まで到達する天体からの光子は多少は存在すると考えられる。このとき望遠鏡の対物レンズには光害も一緒に入ってくるわけだが焦点上では天体の光があるところの光子の量はバックに比べて多少は多いはずである。言い換えるとトータルの光子の量は光害の光子に天体からの光子が僅かだが加算されたものと考えられ、天体の光があるところと無いところの区別がつけば写真は写る!といえる。あるいは画像処理でなんとかなるといえる。従って光害地ではいかにコントラストを上げるか、すなわち光の無いところの明るさをいかにおさえるかということにつきる。

実際にはフィルターを使ってバック濃度をおさえることである。光害カットフィルターは各社それなりの効果が認められるが、ある波長の透過率が90数%と謳っているフィルターでも撮影対象にもよるが星雲などの総合透過率はかなり落ちると考えていた方が良い。写らなくては始まらないので対象によって使い方を選ばないと逆効果になることもある。

赤い星雲は光害地でも比較的写り易い光は波の性質も持っているから波長の長い光は光害粒子に妨害されにくく地上まで届くからである。光センサーが赤外線を使っている理由の一つに埃に強いという性質があるからということからも納得できる。従ってデジカメの赤外カットフィルターを取り外すことは非常に効果的であるが、星雲が発するHaなどの近赤外線より波長の長い赤外線はカットしないと全体にベールがかかったようないわゆるヌケの悪い画像となる。

以上のような考えと経験から光害地でも星雲などはある程度の差はあるが写るというレベルでは可能である。しかし光害カットフィルターなどを入れることによる光量ロスは想像以上に多くこのロスを補うための明るい光学系が必要となる。そこで「デジカメコリメートアイピースを考える」のところにも記しているように縮小コリメート法は簡単に且安価に明るい光学系を構成することができるのでコリメート撮影をもう一度見直したいと思っている。
これと似た撮影方法に拡大撮影法(リレーレンズ法)というのがあり、合成焦点距離=望遠鏡の焦点距離X拡大率、拡大率=接眼レンズからフィルムまでの距離/接眼レンズの焦点距離 −1と教科書に載っている。ここで拡大率を1以下、0以上となるようアイピースとその間隔を選べば縮小光学系になるはずなのだが実験ではうまく行かなかった。 アイピースを2個使うと良さそうな気がするが、そうするとコリメートと同じになってしまう。             

光害地では夜空が明るいから長時間露出はできないことは前述した。従って短時間露出にせざるを得ないから天体のコントラストが非常に小さい。この非常に小さいコントラストを画像処理によって広げてやらなくてはならないから極端なレベル調整が必要となる。しかし極端な調整をすると画像が荒れて非常にきたなく、いわゆるS/N比の悪い画像となる。これを補うための唯一の方法は多数枚のコンポジットで、経験的には対象の天体にもよるが最低でも8枚、淡い天体では30枚以上のコンポジットが必要と考えている。また光害地では天体からの光が弱められているから総露出時間は比較的光害の少ない場所にくらべて2〜5倍、場合によっては10倍必要であると考えている。

フードについて 望遠鏡やレンズのフードは単なる飾りではない。光害地での撮影で特に気をつけなければならないのはフードで、余分な外光を遮断する役目を担っていることくらいは誰でも知っているが、案外疎かにされているのがフードの内面反射だ。レンズに直接外光が入るのは論外だが、ただフードをつけておけば安心という訳ではではない。フードの内側にも外光があたらないようにするべきである。今や隣の家との距離が数メートルというのは当たり前で近所の窓明かりがフードの内側を照らすのだ。見た目にはよく分らないが極端な画像処理するとたちまちバックの傾斜かぶりとなって現れてくる。このかぶりは複雑で画像処理でなかなか除去できない。最近見かけないが先端が斜めにカットされたフードなど良いかもしれないが、どっちを向いても光で溢れている街中ではこれも効果は薄いかもしれない。

FLATフレームについて 一般的にFLATフレームは均一な光源を用いて撮影しておくと言われているが、自宅ではあまりうまくいかないことが多い。街中ではバックの空自体が均一な明るさではないからだ。レンズが向いている方向の狭い範囲ならば一見一様に見えるが、これも強力な画像処理をするとFLATの効果が偏ることがある。なるべく撮影する天体と同じ方向の空でFLATを得た方が良い。勿論ディフューザーなどで星が写らないように散乱させる必要はある。更に光害の程度にもよるが毎回撮影した方が良く、過去のFLATは再利用できないと思っていた方が良い。

以上のように殆んど画像処理の恩恵によってメジャーな星雲/星団なら光害地でもとりあえず写ることは分った。


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