正立ミラーシステム(EMS)の製作記

はじめに

ずいぶん昔のことだったと思うが天文誌に2枚の鏡を使った正立ミラーシステムが紹介されていた。反射面で正立像を得るためには通常4回の反射が必要であるがこのシステムではたった2枚の鏡でこれを実現している。
この記事では像がどのような光路を通って上下左右が反転(180度回転)するのか解説していたと思うが、その空間図形が理解できず当時は「おもしろいな」と思っただけで記憶の片隅に追いやられていた。

最近になってあの空間図形はどのようになっているのだろうと頭の中で考えるのだが通常の反射の考え方では2枚の鏡で上下左右を反転することは出来ても対象物と方向を一致させることができない。
ここでいう方向とは視線方向ではなく自分が向いている方向のことで通常前方である。自分が下をむいていようがどこを向いていようが目より頭の方向が上で顎の方向が下、右手の方向が右で左手の方向が左であり、あたりまえのことだが上下左右は自分の目を基準に考える。鏡で見ると左右が反対に見えるというがこれは鏡が左右を反転しているわけではなく自分の向いている方向が対象物の方向と違うからだ。理屈っぽくなったが上下左右反転と方向をそろえることは通常の90度ずつ反射させて・・・と考える方法では無理のようだ。

そこで手鏡を2枚持って実験するが通常の反射の概念が邪魔をしてどこを見ているのか分らなくなる。鏡に映った鏡の像をいろいろと模索しているとだんだん見えてくる。それは鏡を斜めから覗くことと2枚の鏡の面は直交したときが違和感がなくなることである。(上下左右反転) 鏡の角度を変えると像は回転することも分ってきた。また直交した鏡全体を直交軸の回りに回転しても視野範囲は狭まるが映像に関係ない。
光路が3次元空間を進むので図に描きにくいがあえて描くとこのような↓感じ。

これはすでにご存知のメガネのマツモト松本氏が発明特許をもっているEMS(Erecting Mirror System)である。
これは頭の中だけでは想像がつかないし、まして光路図を正確に描くことも出来ない。設計図を描いて製作したいが反射面の角度や何やら面倒くさそうで実践で製作してみようと思う。

試行錯誤
まず2枚の鏡は直交しなければならないことが分ったのでアルミ板を曲げて90度のアングルを作り、これにミラーを貼り付ける。本来は楕円鏡を用いるべきだが、ミラーは40X30mm平面鏡(第1ミラー)と顕微鏡に使われていた約25X33の六角鏡。(第2ミラー)
ああでもない、こうでもないと2枚のミラーの位置関係を試行錯誤で決めてゆく。主軸に対してミラーをねかせて行くと45度俯角も可能か?・・・と思えてくる。

アルミアングルは大雑把な寸法なので無駄な部分が多い↓。第1ミラーに映った第2ミラーの像(右) マウスパッドの文字が上下左右反転している。

自分が覗く位置、俯角によって第2ミラーの位置を調整しなければならない。
45度俯角にしようとするとやはりミラーの大きさがとても足りない。ミラーの面積効率が一番高いのはやはり90度だ。
ミラーはアルミアングル面上の配置だけでなく面の平行移動(ミラーの厚み方向の移動)も考えなければいけないようだ!

望遠鏡に取り付け光軸調整をしなければならないので2.5mmアクリル板でL型ミラーハウジング基部を作った。望遠鏡との接続はPENTAX SマウントのTリングを使用、Tリングの内リングを望遠鏡側に取り付けておけば脱着が簡単になる。90度アルミ板はつや消し黒で塗装し、適当*に傾くように足を取り付けている。

望遠鏡に取り付けてハウジング基部上で90度アルミ板(ミラーアッセンブリー)を動かし位置決めをしようとするが、基準となるものがあまりない。唯一の基準は望遠鏡の主軸であるが直接目で見えない。
ミラーアッセンブリーの90度の稜線は水平面への投影が主軸と平行であるべきなので、これを守りながら第1ミラーの中心がTリングの中心と一致するように目視で配置する。

最終的には望遠鏡のレンズ手前から覗いて第1ミラー、第2ミラーの中心がマウントの中心と一致するように配置する。↓

写真左ではミラーが識別しにくいので第1ミラーは赤、第2ミラーは黄、マウントは青で縁取りしている。ミラーに焦点を合わせたのでレンズ枠はボケている、また中心も少し外してしまった。
写真右は目いっぱい第2ミラー(接眼部側)に近づいて撮影したもので対物レンズ全面が第2ミラーの中心に見えることを確認している様子。 使用する接眼レンズの絞り環の直径範囲でケラレが無ければ良いが、ここでケラレがあるようなら第1、第2どちらかのミラーの大きさがたりないことになる。 ミラーの位置が決まったら仮止めしておいたミラーアッセンブリーやミラーを固定する。

次は接眼部だがこれが一番やっかいそうだ!

*先ほど適当に決めたミラーアッセンブリーの主軸に対する角度(90度稜線の)はそのまま俯角となって現れるようだ。光路がねじれているのでややこしいと思っていたが普通の1枚鏡と同じで45度のときは45X2=90度俯角となる。ということは適当に決めた実測値は約35度だったから俯角は約70度ということになる。本当は60度くらいを目論んでいたがここまで来るまでこの理屈に気がつかなかった、そうすればもう少し正確に工作できたはずだと思う。
話が少しずれたが90度とか0度という単位ならば工作はしやすい。しかしそれ以外の角度ではとたんに工作が面倒になる。接眼部を傾けなくてはならないので当然これを調整するスケアリング機構も必要になってくるし光軸を一致させるセンタリングも必要である。90度俯角ならセンタリングだけで済みそうだ。本家EMSが90度なのもなるほどと納得がいく。

他に調整機構をもたない今回の場合接眼部は最低限スケアリングとセンタリング調整機構が必要となる。
接眼部は全体を覆うアクリルの箱(ミラーハウジング)に取り付けようと思っているが最初は厚紙で作る。四角い箱を作って接眼部の光軸位置を見つける。容積をなるべく小さくしたいので無駄な部分をなるべく省き、この厚紙を元にアクリル板を切り出してミラーハウジングとし、結局こんな↓形になった。接眼部の傾斜角を調整するため4本のネジでこれを調整しその上で接眼体を移動させて光軸調整する。

まだまだ無駄な空間は多くもっとコンパクトにできる余地があるが工作が面倒なのでやめた。結局必要な光路の空間だけを確保すると本家EMSのエルボータイプになる。なまじ90度俯角からずらしたので、ハウシングの工作も光軸調整も想像以上に大変だ。また第2ミラーは長さが足りず24.5サイズのアイピースならOKだがアメリカンサイズの20mm以上だとケラレが出る。
光路長は大雑把に測って110mm位なので合焦範囲の広い鏡筒が必要となる。90度俯角ならもう少し短くなるし小型に出来るだろう。第1ミラーと第2ミラーの間隔を極力短くすれば良いはずだが何か関係式があるらしい。

あとはスキマを硬質スポンジで埋めて完成。 気のせいかプリズムを2個使ったものより視野は明るく感じる。接眼部を水平にして覗くとなんと!正立像だった・・・・当然か?
それにしても第1ミラーあるいは第2ミラーで反射される主軸の角度は何度になるのだろう・・・?固くなった頭で考えるとほんと疲れる!

2007/06記

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